意外と知らない常用漢字 - 同じ読み方を持つ常用/常用外漢字 -
スタイルガイドで漢字に関する項目を見てみると、多くの場合「常用漢字を使う」とあります。常用漢字とは、政府が指定した「一般の社会生活において現代の国語を書き表すための漢字使用の目安(内閣告示)」です。調べていたら、意外な読み方が含まれていたり、その逆もあったりしてなかなか面白かったので、次のような3回構成でご紹介しようと思います。
- 同じ読み方を持つ常用/常用外漢字
- 意外と常用漢字に含まれている読み方
- 意外と常用漢字に含まれていない読み方
第1回目の今回は、「同じ読み方を持つ常用/常用外漢字」をいくつかご紹介し、常用漢字のみのスタイルだった場合にどう書くべきかを考えてみます。
同じ読み方を持つ常用/常用外漢字の例
くらべる
- 例: 「2 つの出力サンプルをくらべます。」
「くらべる」には、「較べる」「比べる」の2つの漢字が考えられます。常用漢字を確認すると、「比」の読み方には「ヒ」「くらべる」とありますが、「較」の読み方には「カク」しかないので、「較べる」を使うことはできず、「比」を使うか、平仮名にすることになります。漢字の「比」を使うのが自然のような気がしますが、念のため漢字の意味を確認し、例文の意味が損なわれないかどうかを確認しておいた方がいいでしょう。旺文社の漢和中辞典を引いてみると、「比」の項には次のようにあります。
人がふたり並んださまで、「ならぶ」、転じて「くらべる」意を表す。
この例では問題なく使えそうですね。
いかす
- 例:「オプションのアダプタを使うと、この機能をさらにいかすことができます。」
「いかす」は、「活用する」をイメージしやすい「活」で書かれることが多いのですが、実は常用漢字に「活」の読み方は「カツ」しかありません。したがって厳密には、常用漢字に唯一「いかす」の読みが登録されている「生」、または平仮名にする必要があります。
こちらも辞典を見てみます。「生」の項には次のようにあります。
草木が地上に芽ばえるさまで、「はえる」、ひいて「うまれる」「いきる」「いのち」などの意を表す。
うーん。機能を「はえる」「うまれる」などと描写することはあまりないので、この場合は「生かす」よりは平仮名の「いかす」の方が適切かもしれません。
IT翻訳では使う漢字が限られてくることもあり、常用漢字を気にかけることは他の分野に比べると少ないのですが、その数少ない例外がこちらだと思います。そして実際は「活かす」を採用しているお客様も多くいらっしゃるので、柔軟な対応が必要になります。
その他の例
ほかにも次のようなものがあります。スピッツの新アルバムは常用漢字外なんですね。
読み | 常用漢字 | 常用漢字外 |
---|---|---|
あやしい | 妖しい | 怪しい |
いかす | 生かす | 活かす |
おもう | 思う | 想う |
かなしむ | 悲しむ | 哀しむ |
きも | 肝 | 胆 |
くらべる | 比べる | 較べる |
さと | 里 | 郷 |
さめる | 覚める | 醒める |
すすめる | 勧める、薦める | 奨める |
たがやす | 耕す | 墾す |
とまる | 止まる | 停まる |
はげしい | 激しい | 烈しい |
まもる | 守る | 護る |
ゆるす | 許す | 赦す |
わかる | 分かる | 解る、判る |
まとめ
使う漢字が厳密に指定されている場合、ここまででご説明したような、意図する読み方を持つ常用漢字を確認して、その漢字の意味を調べてから使うようなフローがおすすめです。場合によっては平仮名に戻すような判断も必要になるかと思います。
次回は、「意外と常用漢字に含まれている読み方」をご紹介します。
- 第2回「意外と常用漢字に含まれている読み方」
- 第3回「意外と常用漢字に含まれていない読み方」