「よしんば」のディープな世界

「よしんば」のディープな世界

唐突ですが、「よしんば」という言葉をいつか使ってみたいと思いながら、なかなか使う機会がありません。
いつか使うときに間違えないように「よしんば」を調べなおしたところ、知らないことが次々出てきて楽しかったので記録しておこうと思います。

「よしんば」
漢字:
 縦んば
意味:
(副)
(多く下に逆接の仮定条件を伴う)話し手が肯定しがたい、極端な事態を仮に想定するさま。たとえそうであったとしても。かりに。
「 -来たとしても,私は会わない」

出典: 三省堂 大辞林


意外な感じの漢字です。
個人的には「縦」という字を「よし」と読んだことはありません。
気になるので、「縦」という字を漢字辞典で引いてみると、表外読みでありました。

1. たて: たて。上下。また、南北の方向。
2. はな(つ): 放つ。矢を発する。火をつける。つかわす。
3. ほしいまま: ほしいまま。心のまま。勝手気まま。ほしいままにする。
4. ゆる(す): ゆるす。みのがす。釈放する。解き放つ。
5. ゆる(める): ゆるめる。ゆるむ。ゆるい。
6. よし(んば): 「たとい」「よしんば」と読み、「かりに・・・としても」の意。

出典: 漢字辞典オンライン: http://kanji.jitenon.jp/kanjib/901.html

1. 以外は表外読みです。「はなつ」、「ほしいまま」、「ゆるす」、「ゆるめる」。どれも知りませんでした。あぁ、どれも気になる!
でも話がどんどん逸れていきそうなので、今回はとりあえず横に置いておきましょう。
「縦」は「縦令(たとい)」とも読みます。
「たとい」から「例え(たとえ)」に変化していったようです。
ちなみに「たとい」で漢字変換すると「仮令(たとい、けりょう)」という字も候補にでてきます。
「仮令」では必ずしも逆接の仮定条件を伴わず、「たとえば」の意味が強くなります。
「縦令」→「仮令」→「例え」に変化していったのでしょうか。
「縦」という字は奥深そうです。


「よしんば」に話を戻しましょう。
「(多く下に逆接の仮定条件を伴う)」とあるので使い方に気を付けないといけないようです。

「よしんば台風が来たら、学校は休みになる」という文は逆接の仮定条件を伴わないので正統な使い方ではありません。
「よしんば台風が来たとしても、私は会社に行くのだ」という文のほうが適切です。
いろいろ例文を考えてみると、「よしんば」は何か熱意を示すときに使うことが多そうです。
情熱とか熱血から縁遠い人間には使うチャンスがないのかもしれません。


気を取り直して調べ続けてみましょう。
「よしんば」は英語で言うと「even if」です。
Even if the typhoon hit this area, I will go to office.
(よしんば台風が来たとしても、私は会社に行くのだ)


そして、「even if」を英和辞書を引いてみたところ、「縦や(よしや)」という知らない言葉がまた出てきました。
「縦や(よしや)」を調べると、今度は古語辞典にたどりつきました。

①仕方ない。まあいい。ままよ。
②たとえ。仮に。という意味の古語のようです。
例文: よしや人こそつらからめ(たとえあの人がつらくあたっても。)

出典: 学研全訳古語辞典(weblio) http://kobun.weblio.jp/content/%E7%B8%A6%E3%81%97%E3%82%84


というわけで、「よしんば」は古語の「よしや」が元になっていると思われます。

こんな風に、辞書をどんどん調べていくと、知らないことがたくさんでてきて楽しいです。
翻訳している人なら同じような経験、ありますよね。

知識が付いたところで、いつか「よしんば」を正しく情熱的にさらっと使ってみたいと思います。

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