IT 産業翻訳のための日本語テクニカル ライティング (2)
2. 用語・表記
前回のコラム 「IT 産業翻訳のための日本語テクニカル ライティング (1)」 では、翻訳するときに使用する文字について書きました。
使用するひらがな、漢字、そして漢字とかなの使い分けについて、少し理解が深まったでしょうか?
今回は、送りがなと外来語の表記について書いてみます。
2.1 送りがな
「暖い」と「暖かい」とでは、どちらの送りがなの付け方が適切でしょうか?
送りがなの使い方の基準を決めるものとして、昭和48年6月18日内閣告示第二号の『送り仮名の付け方』があります。
http://www.bunka.go.jp/kokugo/main.asp?fl=list&id=1000003931&clc=1000000068
ここには 7 つの通則があり、それぞれに「本則」と、「例外」(本則から外れた規則)または「許容」(慣用的に認められるもの)の使い方が示されています。
例えば、「通則1」では次のように記述されています(一部抜粋)。
本則 活用のある語(通則2を適用する語を除く。)は,活用語尾を送る。
[例] 憤る 承る 書く 実る 催す
例外 (1) 語幹が「し」で終わる形容詞は,「し」から送る。
[例] 著しい 惜しい 悔しい 恋しい 珍しい
許容 次の語は,( )の中に示すように,活用語尾の前の音節から送ることができる。
表す(表わす) 著す(著わす) 現れる(現われる) 行う(行なう)
基本的に「本則」「例外」を採用しますが、次のように「許容」の使い方を認める場合もあります。
1 つ目は、誤読を防ぐ目的で送りがなを多く付ける場合です。前述の例では「行なう」という表記が許容されています。「行って」と書いた場合には、(いって)と読むこともできるため、あえて「行なって」と表記することがあります。
2 つ目は、図表の中などで文章を書くスペースが制限されている場合です。「通則4」のように、本則では「曇り」ですが「曇」も許容されています。
さて、冒頭の「暖い / 暖かい」の送りがなの付け方ですが、この『送り仮名の付け方』によると「暖かい」とするのが良いようです。
送りがなの使い方を統一したい場合に、発注者で送りがなの使い方を指定することもあります。
2.2 外来語の表記
翻訳された文書でバラつきが生じやすいのは外来語の表記ではないでしょうか。
文書の表記を統一するためには、主に次の点に気をつけて外来語を表記します。
・使用するカタカナ
・長音記号の有無
・複合語の表記
・技術用語
これらの点についても、発注者があらかじめ指定しておくと文書の表記を統一することができます。
2.2.1 使用するカタカナ
たとえば、Violin は「バイオリン」と「ヴァイオリン」のどちらの表記にするか迷ったことはありませんか?
外来語をカタカナ表記する場合は、平成3年6月28日内閣告示第二号の『外来語の表記』を参考にしてみてください。
http://www.bunka.go.jp/kokugo/main.asp?fl=list&id=1000003933&clc=1000000068
一般的に使用するカタカナが第1表、現地の発音やつづりにあわせて使用するその他のカタカナが第2表にあります。
どの表記が正しいかを定めるものではありませんので、あくまでも参考程度にご覧ください。
2.2.2 長音記号の表記
『外来語の表記』には、「語末の -er、-or、-ar にあたるものは、長音記号を用いて表す」とあります。しかし、技術用語の場合、単語末尾の長音記号を省略する慣習があります。
長音記号の表記方法でよく見かけるのは、次のようなパターンです。
パターン 1:技術用語、一般用語ともに、長音記号を表記する。
パターン 2:技術用語、一般用語ともに、長音記号を表記しない。
パターン 3:技術用語には長音記号を表記しないが、一般用語には長音記号を表記する。
「長音記号を表記しない」とする場合でも、「カタカナで表したときに 3 文字以内になる場合は長音記号を付け、4 文字以上になる場合は長音記号を表記しない」という補足ルールを適用する場合もあります。
例:
パターン 1:コンピューター、サーバー、ユーザー
パターン 2:コンピュータ、サーバ、ユーザ
パターン 3:コンピュータ、サーバ、ユーザー
補足ルール:コンピュータ(4 文字以上)、サーバー(長音を省くと 3 文字以内)
2.2.3 複合語の表記
message window のような複合語を訳す場合、次のような表記方法があります。
パターン 1:つなげて表記(例:メッセージウィンドウ)
パターン 2:半角スペースで区切って表記(例:メッセージ ウィンドウ)
パターン 3:中点で区切って表記(例:メッセージ・ウィンドウ)
2.2.4 技術用語の表記
IT の技術用語を翻訳する場合は、日本語に訳す場合もありますが、そのままカタカナで表す場合も多くあります。また、同じ単語でも、文脈に応じて訳語を変化させたほうが良い場合もあります。たとえば、permission は、通常は「権限」と訳しますが、Unix のファイルやディレクトリのアクセス権について説明する場合は「パーミッション」と訳すことがあります。
各用語に対してどのような訳語を当てるのかを決めておくと、一貫性のあるドキュメントを作成することができます。
多くの場合、発注者が英日対訳用語集(参照:サンプル「英日対訳用語集」)を作成して、使用する訳語を指定しています。
IT 分野では新しい用語が次々と生まれます。また、日本語に翻訳したものとカタカナ表記のどちらが理解しやすいかは、技術の普及度に応じて変化する場合があります。そのため、この用語集はこまめに追加、更新する必要があります。
サンプル
英日対訳用語集
参考文献
昭和48年6月18日内閣告示第二号『送り仮名の付け方』
平成3年6月28日内閣告示第二号『外来語の表記』