日本語で「ベター」はどのように使われているか

日本語で「ベター」はどのように使われているか

「ベター」という言葉があります。

書き言葉として使うのはまだ躊躇することが多いかもしれませんが、話し言葉としては耳にする機会が増えてきました。日本語として徐々に市民権を得つつある感じがしています。

元はもちろん英語のbetterで、国語辞典にも「よりよいこと」「比較的よいこと」などの語釈でたいてい載っています。英語のbetterとほぼ同義ですが、言葉は使われているうちに意味や用法が少しずつ変化していきます。日本語としてはまだ若い言葉ですので、人によって受ける印象が違うと思いますし、用法もまだ固まっていないように思います。聞いたこともないという人もいるかもしれません。

実際に現在の日本語ではどのように使われているのか少納言で調べてみました。

まず、書籍での用例をいくつか拾ってみます。

例1

(前略)帰りには寿司や刺身を食べるとよりベターです。(後略)」

小林 祥晃(著)、『誕生月でわかるDr.コパの風水大開運』日本文芸社、2005年

例2

(前略)そんなところだろう。よりベターな仕事をしたい、よりベターな職業人に成長したいと願う人間にとって(後略)
烏賀陽 弘道(著)、『「朝日」ともあろうものが。』徳間書店、2005年

例3

(前略)つまり、ベターなラーメンはあっても、ベストなラーメンという正解がない。(後略)
岡田 哲(著)、『ラーメンの誕生』筑摩書房、2002年

例4

(前略)財産家の娘である紗織が、弘之と離婚して自分と再婚してくれるのがベターだったが、紗織は社長夫人という裕福な暮らしに満足していて、(後略)
浅黄 斑(著)、『死螢』祥伝社、1997年

翻訳業界人としての突っ込みとして、まず例1、2の「『よりベター』ってどうよ」というのがあります。

例1はたしかに「~食べるとよりよいです。」か「~食べるとベターです。」でよさそうですが、文脈によっては「焼き魚を食べるとベターだが寿司や刺身を食べるとさらによい」のような意味の場合もあるかもしれません。ですが、ここではおそらく単に強調の意味か語感の問題か個人的好みで使用しているのではないでしょうか。

例2は、ベターのさらにベターを追求していくというような意味と思われます。先ほどの焼き魚の例と同様に「より」と「ベター」が単純に比較の意味で重複しているのではない、「ベターのさらにベター」の意味である(とも取れる)ので、成長のステップが延々と続いていくような場面では使ってもよいかもしれません。

例3を見て考えたことは、「ベター」と「ベスト」の関係性についてです。「最もベター」なものは「ベスト」なものかという点。論理的には「最もベター」は結果的に「ベスト」のように思えますが、ベストとはいえないがベターな方法」という使い方のように、ベター」はたとえそれが「最も」であっても、最高とは言い難い、だが今のところ最も良い、どこかにもっと良いものがあるはず、というニュアンスが含まれそうです。

それはそれとして、「ベター」「ベスト」は主観的判断にも使いますので、その人にとっての「ベストなラーメン」は存在してもいいような気がしますが、そこは著者と私のラーメンに対する哲学の違いかもしれません。

例4で気になるのは、、、ストーリーです。ドラマにもなったようです。

次に、口語の用例として、同じく少納言から「国会会議録」指定で確認してみます。

発言者の名前を明示するのが何となく気が引けるのでここでは伏せておきますが、公開情報ですので気になる方は調べてみてください。国会会議録は国会会議録検索システムでも検索できます。

「(前略)物価スライドよりも賃金スライドにした方がベターである、このように私は考えているわけでございます。(後略)」

「(前略)提案されたものをよりベターなものに仕上げていく、(後略)」


「(前略)できるだけ公団がこの負担に対して応じていくという対応が最もベターではないか。(後略)」


「(前略)日本もベンチマーク方式に移行すると非常にベターじゃないかというときには検討していくという考え方にはなろうと思いますが、(後略)」


「(前略)独立した組織で対応するというのが個人的にはやっぱりベターなのではないかと、(後略)」

口語ですのでより自由な使われ方をしています。

一応それぞれ気になる点を挙げておきます。

した方がベター」→重複感あり。「した方がよい」で代替できそう

よりベター」→前出

最もベター」→前出

非常にベター」→前述のように「ベター」は「ベストではない」の意味を含むように思うが、程度が甚だしいことを表す副詞と一緒に使えるか

やっぱりベター」→「ベター」に感じられる「どちらかと言えばこっち」「まだまし」のようなやや消極的なニュアンスと「やっぱり」を一緒に使えるか

ここまでの用例を見てみると、現在日本語で使われている「ベター」は、比較の意味が徐々に薄れながら、プラスの方向であることを多少婉曲的に表したいときに広く使える便利な言葉、になりつつあるように感じます。

さまざまなカタカナ語が飛び交うビジネス界ではいろいろなニュアンスを帯びることがあるようですので、仕事中の会話で使うときはお気を付けください。

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