「配付」と「配布」の使い分け
「配付」と「配布」の使い分けを整理してみました。
まずは辞書上の意味の確認です。
はい‐ふ【配付】
[名](スル)配って各人の手に渡すこと。「出席者に資料を―する」
はい‐ふ【配布】
[名](スル)配って広く行き渡らせること。「駅前でちらしを―する」
これだけだと使い分けがよく分からないので、NHKのサイトにあった解説を引用させていただきます。
「配付」の「付」には、「人に手でものを渡す」「そこまで持っていく」という意味があります。これに「配(くばる)」をつけた「配付」は、「特定の人々一人一人に配る」「関係者めいめいに与え渡す」ことを意味することばです。また、「配布」の「布」は、「広い範囲に(あまねく)行き渡る(渡らせる)」ことを意味することばです。これに「配」をつけた「配布」は、「広く配って行き渡らせる」「あまねく一般に行き渡るように配る」ことを意味します。したがって、あるモノを「各人に配り渡す」場合は「配付」、「(不特定の)おおぜいに渡す」場合には「配布」と表記しています。
「配付」...議案の~ 資料の~ 「配布」...ビラを~する
(『新用字用語辞典』P375参照)
また、『日本語の正しい表記と用語の辞典』では次のようになっています。
配付 [めいめいに配り渡すこと] 身分証明書を~する
配布 [広く配ること] ビラを~する
辞書の意味とだいたい同じです。
これらを踏まえ使い分けを簡単にまとめると以下のように言えそうです。
【配付】特定の人や配られるべき人に何かを配ること
【配布】不特定多数の人に何かを配ること
一方、共同通信の『記者ハンドブック』の記述は以下の通りです。
(配付)→(統)配布
「配布」に統一となっています。『朝日新聞の用語の手引』も、共同通信と同様に「配布」に統一です。
IT関連の文脈でよく出てくるのは、ソフトウェアやアプリケーションを「はいふ」する場合です。
実際に翻訳している感覚では、基本的にはソフトウェアは「配布」される印象ですが、これらは使い分けされているのでしょうか。
上でみた使い分けに無理矢理従って考えると、
①特定のユーザーにアプリケーションを提供する場合は「配付」
②不特定多数のユーザーにアプリケーションを提供する場合は「配布」
となりそうで、
①に該当するのは、企業内で使うシステムで社員にアプリケーションを提供するような場合・・・?
②に該当するのは、スパム的に送りつける場合やWeb上で誰でもダウンロードできるような場合・・・?
と考えてみましたが、いやいやそこまで考えて使い分けされてないだろと思って考えるのをやめました。
試しに「アプリケーション 配付」と「アプリケーション 配布」をそれぞれ検索してみると、両方引っ掛かりますが後者が圧倒的に多いという状況です。
いくつか大手IT企業のサイトを確認してみると、「配布」で統一しているように見受けられる企業が多く、混在している企業もあり、「配付」で統一している企業はなさそう、という感じです。
使い分けに従うと、どちらかというと「配付」の方が適切なケースが多い気がしなくもないですが、「配布」統一ルールが適用されて今の状況になっているのか、それともコンピュータだと手渡しじゃないから「配付」がしっくりこなくて避けられたのか、それとも単にどこかの大手が最初に採用していつの間にか「配布」が広がっていたのか。
今の状況になっている原因は定かではありませんが、翻訳で出てきた際は、使い分けも頭に入れつつ、現在の使用状況も頭に入れつつ、その企業やプロジェクトの表記ルールやスタイルガイドなどを確認して対応する必要がありそうです。
使い分けのサンプルとして以下の例文を考えてみましたが、どうもしっくりきません。
・エサの時間になったので飼育員さんがゴリラにバナナを配付している
・「エサを与えないでください」の看板を無視して小学生が野生の猿にバナナを配布している
配付も配布も人間相手にしか使えないのかどうか、もう少し調査の余地がありそうです。