多言語化のススメ---その6:固有名詞の注意点

多言語化のススメ---その6:固有名詞の注意点

日本語から多言語に翻訳するとき、注意しなければならないのが固有名詞をどうやって訳すかです。例えば、おみやげ屋で「バクダンせんべい」というせんべいがあって、それを多言語化する場合、音で翻訳する、意味で翻訳する、両方併記するなどの選択肢があります。
英語に訳す場合であれば、意味で訳すと「Bomb rice cracker」、日本語の音で訳せば「Bakudan Senbei」といった感じになるでしょうか。

「Bomb rice cracker」とすれば、それがどういう商品なのか、アメリカ人でも何となく分かります(少なくともせんべい(Rice cracker)の一種であることは分かります)。しかし、お店で注文するときに「Bomb rice cracker, please(Bomb rice cracker をください)」と言ってもお店の人には通じないでしょうし、道行く人に「Where can I get Bomb rice cracker? (Bomb rice cracker はどこで買えますか)」と聞いても分かってもらえないでしょう。
「Bakudan Senbei」とすれば、外国人にとってはそれが何の意味なのかさっぱり分かりません。しかし、お店で「Bakudan Senbei, please(バクダンせんべいください)」と言えば、お店の人も何がほしいのかすぐ分かります。

このように、誰を対象とするかで翻訳は変わってきます。そして、誰にでも通じるように、音でも意味でも分かるように訳すというのは非常に難しいことです。


それでは、音でも意味でも分かりやすい例を 1 つ挙げてみます。コカコーラはもともとアメリカで生まれましたが、中国語での表記は「可口可?」となります。これは、意味としても「口に可(ヨ)く楽しい」(可くとは美味しいの意味)となってコーラのイメージが伝わってきますし、読んでみても「クコクラ」となって「Coca Cola」に近い発音になる、絶妙な翻訳です。しかも画数も少ないため非常に覚えやすいです。ここまでの訳はなかなか難しいでしょう。

ちなみにコカコーラの中国語訳ですが、最初は「蝌蝌??」とする予定だったようです。読み方は「コカコーラ」に近いようですが、字を見ると虫がうごめいているような感じでとても飲む気にはなれません。もしこの漢字が使われていたら、コカコーラも中国では成功しなかったかもしれません。
このように、訳文一つで企業のブランドイメージは大きく変わってしまいます。

では、実際に多言語に翻訳する場合はどうすればよいのでしょうか。コカコーラのようにそれぞれの国で定着した訳語があればもちろんそれを使いますが、「バクダンせんべい」の訳語なんて見つからないでしょう。よくあるのは、音で訳して意味を追記する方法です。バクダンせんべいを英訳する場合は、「Bakudan Senbei (Bomb rice cracker)」としたり、「Bakudan Senbei, rice cracker」としたりします。両方とも「バクダンせんべい」を 1 つの固有名詞ととらえ、後にせんべいの一種であることを補足して翻訳しています。


このような訳し方は地名などでも多く見られます。また、「利根川」を「Tonegawa River」としたり、「芦ノ湖」を「Lake Ashinoko」としたりする例もあります。これらは「Tone River」、「Lake Ashino」とする方が正確だと思いますが、それぞれの読みの響きや認知度を考慮した上で、「利根川」と「芦ノ湖」を 1 つの固有名詞としてとらえています。
(参考:『観光活性化標識ガイドライン』 P12: http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/hyoshiki/guideline.pdf


決まった訳語がなければどのような方法で訳しても構いませんが、読む人が分かりやすいようにするにはどう翻訳すればよいかをよく考え、そして各言語で表記方法をどうするかを事前に決めて統一することが重要です。


また、言葉は時間とともに変化していくので、その言葉が現在他の国ではどのように認識されているかを考えることも重要です。たとえば「温泉」という言葉も、以前までは「hot springs」という英訳が多く使用されていましたが、最近では「onsen」という言葉も英語として定着しつつあります。そのため、「hot springs (onsen)」というように併記したり、「onsen」だけで表記するケースも見られます。

さて、ここまでは日本語から多言語に翻訳する場合を見てきましたが、逆に多言語から日本語に翻訳する場合はどうでしょうか。英語から日本語にする場合は、英語の単語をそのまま使ったり、意味で訳して英語をカッコ書きで併記したり、あるいはカタカナを使用したりします。英語以外の言語から日本語にする場合は、原文の単語をそのまま使用してもほとんどの日本人が読めないため、カタカナを使用する場合が多いです。


このカタカナという文字は非常に便利で、最初は音からつけただけのカタカナであっても、それが外来語として定着し、いわゆる和製英語などになったりして、その言葉が持つブランドイメージが日本人に定着していきます。

ただし、ブランドイメージが定着するまでは時間がかかるので、初めて出てくるような単語の場合はカタカナを使用して意味を併記することもよくあります。意味だけを表記する場合もありますが、日本語から多言語に翻訳する場合と比べると少ないと思います。



最後に、中国語の企業名や商品名をいくつか挙げましたので、日本語で何と言うか当ててみてください。すべて食品・飲料水関連の固有名詞です。

1. 麦当労
2. 肯徳基家郷鶏
3. 百事可楽
4. 雪碧
5. 伊文娜
6. 可果美
7. 格力高
8. 漢堡包
9. 三宝楽
10. 雀巣珈琲


回答はこの下にあります。










答え
1 マクドナルド、2 ケンタッキーフライドチキン、3 ペプシコーラ、4 スプライト、5 エビアン、6 カゴメ、7 グリコ、8 ハンバーガー、9 サッポロ、10 ネスカフェ

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