TOEICのスコアで翻訳の力を判断できるか

TOEICのスコアで翻訳の力を判断できるか

TOEICのスコアと翻訳能力の関係について、みなさまはどのようなご意見をお持ちでしょうか。

「翻訳にTOEICのスコアなんて関係ない」「いやいや目安にはなるでしょ」「直接的には関係ないにしろ翻訳を生業とするなら当然満点取っとけよ」など、いろいろな考えがあると思います。

TOEICの出題形式が5月の試験から変更になるという話を聞き、いい機会なので自分の考えを整理してみました。

まず結論。まとめると以下の通りです。

1.TOEICのスコアで測れる能力がある

2.翻訳者には求められる能力がある

3.1と2の重複する部分については測れる

(だからTOEICのスコアを何かの判断に使うなら、自分が知りたい能力とTOEICのスコアで測れる能力の関係を考えろ)

TOEICのスコアで測れる能力

TOEICはリスニングとリーディングのパートで構成されています。

公式サイトによると、TOEICでは「和文英訳、英文和訳などの技術ではなく、身近な内容からビジネスまで幅広くどれだけ英語でコミュニケーションできるかということ」を測るとのこと。

受験経験がある方はご存知だと思いますが、スコアシートにABILITIES MEASUREDという欄があり、リスニングとリーディングそれぞれについて、強み/弱みに関する詳細な分析結果を示してくれます。こちらを参照

TOEICではこれらの能力を測定できるということになります。

余談ですが、仮に翻訳者として求める人材が「高い読解力、リスニング力は不問」というのであれば、「TOEIC900点以上」よりも「TOEICのリーディング450点以上」のような書き方のほうがより求める人材に近い人を探せるのではないかと思いました。合計が900点でも、リスニング495点、リーディング405点の場合もあるので(リーディング405点と聞くと一気に心許ない印象になる)。また、個人的な印象ですが合計900点(リスニング495点、リーディング405点)の人より、合計860点(リスニング365点、リーディング495点)の人のほうが翻訳という面では安心感が大きい気がします。以上余談でした。

 

 TOEICで測れる能力がある一方、翻訳者に求められる能力というものがあります。

翻訳者に求められる能力

翻訳者に求められる能力を思いつくままに挙げます。

(英日だとして)英語力、日本語力専門分野の知識翻訳技術調査能力コミュニケーション能力交渉力、営業力、自己管理能力など。実際にはさらに細分化できます。例えば日本語力と言った場合、日本語として適切である、論理が破綻していない、文脈に合わせて適切な用語を使う、など。調査能力と言った場合、ネットで調べる能力、ネット意外で調べる能力、辞書を引く能力など。

翻訳通信さんのサイトから翻訳者に求められる能力について山岡洋一氏が書いた文章を引用しておきます。

「翻訳とはじつに幅広い分野の総称なのである。だから、翻訳者にどのような能力が求められるかという問いは、スポーツ選手にどういう能力が求められるのかという問いと変わらないほど無意味だともいえる。もっと個別具体的に考えていかなければ、答えがでてくるわけがないともいえるのである。」

このように、翻訳者に求められる能力として読解力、翻訳力、日本語力などと言った場合、実際に評価される(意識的にしろ無意識的にしろ)のは個々の具体的な能力であり、その中にはTOEICで測定される指標である程度判断できるものもあると言えるのだと思います。というより判断できるということにしてTOEICのスコアを利用していると言ったほうが近いのかもしれません。

例えば、TOEICのスコアによって、「ビジネスシーンに登場しそうな文書を一定のスピードで正確に読むことができる」能力は測れると見なして良さそうですが、「IT業界の最新用語に関する理解度」は測れません。

まとめ

まとめます。「TOEICのスコアと翻訳能力は無関係!」を仮にテーゼ、「いやいや関係ある」をアンチテーゼとすると、私なりのジンテーゼは以下のようになります(初めに書いた内容と同じですが)。

・TOEICのスコアで測ることができるのはTOEICのスコアで測ることができる能力である
・翻訳者には求められる能力がある
・TOEICのスコアで測ることができる能力のうち、翻訳者として求められる能力と重複している(または重複していると考えて差し支えない)部分についてはTOEICのスコアで測ることができる
TOEICのスコアを如何に利用するかはあなた次第

禅問答のようになってしまいました。

もしくは自明過ぎて何も言っていないのと同じと言えるかもしれません。

実際に翻訳会社が翻訳者の方を評価する際、ほとんどの場合はトライアルの内容が最も重要です。それでもTOEICや他の試験のスコアを判断材料として利用する場合は、それが何の能力を表すものなのか、自分たちが求める能力は何なのかを把握したうえで利用することが大切だと思います。

なお、シーブレインのフリーランス翻訳者募集要項では「TOEIC スコア 860 以上、またはそれに相当する英語力」としておりますが、あくまで目安であり、これのみで判断することはありませんので、積極的なご応募をお待ちしております。

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