「翻訳は嫌いなほうでもありません」「で、どのくらい好きなの?」

「翻訳は嫌いなほうでもありません」「で、どのくらい好きなの?」


日本語お得意の婉曲表現の1つに「~なほうでもない」というものがあります。
「ほう」自体ぼかした表現ですが、さらに実際の意図とは逆の意味の言葉に「でもない」を付けるという二重のオブラートになっています。

この場合に、どのくらいの程度を表しているのかということをいくつかの例で考えてみました。分かりやすいように、まず「好き嫌い」を例に、以下のように「-4」~「+4」にレベルを設定します(これ自体境界がかなり主観的になりますが...)。


例1
「おい伊藤、飲みにでも行くか?」
「はい部長、お酒は嫌いなほうじゃないんで、ぜひ!へへへ」
好きであることを婉曲に言っているような状況です。
この文脈だと、少なくともレベル2はいきそうな印象です。場合によっては4も考えられます。

例2
「伊藤くん、今度一緒にボルダリングでも行かない?」
「先輩って意外とミーハーなんですね。僕は体力があるほうでもないんで遠慮しときます」
「好き/嫌い」を「体力がある/ない」に置き換えて考えます(以下同様です)。
こちらは、「体力がない」ことを取り立てて言っているわけではなく、単に「体力があるわけではない」と言っているだけのように感じます(このへんはかなり微妙です)。レベル0、-1、-2ぐらいでしょうか。

例3
「伊藤さん、今度業界団体の集まりがあるみたいなんですけど、行ってみませんか?」
「僕、社交的なほうじゃないんで、知らない人と話せるかちょっと不安です」
例2と同様、0、-1、-2ぐらいの印象です。

例4
「伊藤ちゃん、なんかオレのパソコン青い画面になっちゃった。直せない?」
「機械は苦手なほうじゃないんで、まかせてください」
例1と同様、自分で得意だということを意識している状況です。レベル2以上でしょうか。


ここまでの例から考えると、
・「(ネガティブ側の言葉)なほうでもない」⇒自分が出来ることを控え目に言っている
・「(ポジティブ側の言葉)なほうでもない」⇒単にプラスではないことを言っている
と言えるかもしれませんが、もっと事例を考えてみないと断定はできません。そもそも人によって印象が変わりそうなので。

また、副詞などが入るとさらに微妙になってくるかもしれません。
「英語はそれほど苦手なほうでもないッス」
「英語は特に苦手なほうでもないッス」
「英語はまあ苦手なほうでもないッス」
オブラートまつり状態です。

ということで、私は日英翻訳はやってないのですが、こんなhigh contextな表現を英訳して原文の意図を過不足なく伝えるのはたいへんそうだなと思いました。

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