Trados Workbench コラム第 6 回

Trados Workbench コラム第 6 回

ここでは、広く使用されている翻訳支援ツール、特に見積りに大きく関わる翻訳メモリ (以下、TM) について紹介いたします。私たちがどのようなものを使用しているかを知ることで、実は翻訳を依頼する側のコスト削減につながります。翻訳を依頼する量、方法、スケジュールも選択肢が増えるのではないでしょうか。


TM の設定内容でコストが変わる! (4/4)

今回は知っておくと便利な複数訳文の設定について説明します。複数訳文とは、1 つの原文に対して複数の訳文があるということです。単なる Yes、No でも日本語にすると、「はい/いいえ」、「あり/なし」など複数の訳文が該当します。また、章のタイトル、文章、または表などによってそれぞれ文末が異なることや、ドキュメントの種類によって表現が異なることがあります。そのような場合に、TM で複数訳文を許可しておくと便利です。


・ 訳文を複数登録する理由

次の例を見てください。場面(文章内、表内、リストアップした項目の 1 つなど)に応じてこの文が変更されることが望ましいのですが、同じ文が使用されることも多くあります。その場合、1 つの原文に対して複数の訳文が発生することがあります。

原文: Ensure that the value is set to 1.
訳文 1:値が 1 に設定されていることを確認します。
      2:値が 1 に設定されていることを確認する
      3:値が 1 に設定されていること

訳文 1 は文章内で手順の 1 工程を説明する場合に使用する表現です。訳文 2 も手順の工程ですが、節のタイトルやリスト内で使用する表現といえます。訳文 3 は表やリスト内に要件を記載する場合に使用する表現だと考えられます。これ以外にも、場面によってはもっとカジュアルな表現になることもあるかと思います。このように、場面や文脈によって、訳文の表現を変えたいときには、複数訳文の機能が役立ちます。訳文を複数登録することで、場面や文脈に応じて訳文を変更することができるため、訳文がより自然になるのではないでしょうか。

また、前回のフィルタの説明でもあったように、製品のバージョンによって訳し方が異なる場合にも複数訳文が登録できると便利です。


・ Trados Workbench で訳文を複数登録する方法

Trados Workbench で、1 つの原文に訳文を複数登録するには、次の 2 つの方法があります。

1.  TM 作成時に複数訳文の登録を許可する
2.  複数訳文を許可せずに、プロジェクトの設定を利用してプロジェクトごとに異なる訳文を登録する

1 番目の方法の場合、TM にプロジェクトを定義する必要はなく、単純に 1 つの原文に対して複数の訳文を登録できます。一方、2 番目の方法の場合、複数のプロジェクトの訳文を同じ TM に登録する場合に役立ちます。TM に複数のプロジェクトを定義することによって複数訳文の登録が可能になります。ただし、この方法では、プロジェクトが異なる場合にのみ異なる訳文を登録できるようになり、同じプロジェクト内で複数の訳文を使用できるようになるわけではないので注意が必要です。

ここでは 1 番目の設定方法を紹介します。


・ 複数訳文の設定

Trados Workbench で複数訳文の登録を許可するには、TM の作成時に、下図の赤で囲った部分にチェックを入れて作成します。



・ 複数訳文の解析における考慮事項

TM の作成時に複数訳文を許可し、ほか設定はデフォルトのまま解析すると、該当する分節は 99% マッチになります。これを回避するには、解析時には旧版のバイリンガルファイル(原文と訳文がセットになったファイル)を利用したり、プロジェクトやフィルタの設定を併用したりすることでマッチ率を上げることも可能です。

複数訳文は、前述のとおり、ドキュメントの種類などを考慮して設定する必要があります。無駄な複数訳文の登録は、たとえば章のタイトル部に「です・ます調」の表現が使用されるというように、ローカリゼーションを進める上で支障となります。

複数訳文の設定については、翻訳のご依頼時などにお気軽にご相談ください。お客様のご希望や原文の状態などを確認しながら、提案させていただきます。

注) ここでは、英語から日本語への翻訳を中心に書き綴っています。英語から日本語への翻訳以外の場合は該当しないことがあります。

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