ここではないどこかのcurrent

ここではないどこかのcurrent

マニュアルのような文書で、current(ly)という単語がときどき出てきます。この種の文書は現在形で書かれることが多いので、その影響で出てくるのではないかと思います。しかし、マニュアルを現在形にするのは、単純に現在のできごとだからというわけではないので、こいつらを訳そうとすると面倒なことになる場合があります。ニコニコぞうさんでお馴染みHadoopのドキュメントから例をさがしてきました。

"Connect to the provided NameNode to determine its current state, printing either 'standby' or 'active' to STDOUT appropriately. This subcommand might be used by cron jobs or monitoring scripts which need to behave differently based on whether the NameNode is currently Active or Standby."
https://hadoop.apache.org/docs/current/hadoop-project-dist/hadoop-hdfs/HDFSHighAvailabilityWithQJM.html

後ろの文は、訳し方がいろいろ考えられるので面倒ですが、たとえば「NameNodeが [currently] アクティブかスタンバイかによって挙動を変える必要があるcronジョブやモニタリング用スクリプトによって、このサブコマンドが使用されることがある。」のように訳せます。さて、ここでのcurrentlyはどのように訳したものでしょうか。

cronジョブやモニタリング用スクリプトはいつ実行されるかはっきりしないものなので、ここに「現在」という訳を入れるのは大変不自然です。このcurrentlyは、cronジョブやモニタリング用スクリプトが実行される時点を指しているわけですね。というわけで、「NameNodeがその時点でActiveかStandbyかによって......」としてもいいですし、そんなことは自明だとして、「NameNodeがActiveかStandbyかによって......」とcurrentlyを訳に明示的には出さない方法も考えられるでしょう。

「現在」では明らかにまずい例をさがすのに、なかなか手間取りました。もやもやしつつも「現在」としてしまって通りそうだなと判断することがよくあり、先ほどの例の最初の文がそれにあたります。
実際に操作しているときの頭の中では「現在のディレクトリ」でよい一方で、文書で説明するときには「カレントディレクトリ」と書きたくなる、というようなことがあるのではないでしょうか。"current"はその場その場の状況に引っ張られる性質があるのに対し、「現在」はそうでもない、ということのような気がします。
いくつか辞書を引いてみたところ、「現在」を言い換えるような訳語は出ていませんでした。権威があるところに何かそれっぽいのを載せて欲しいです。どこかに載っているのかもしれません。

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